初心者でも安心して理解できる機械式腕時計のオーバーホール完全ガイド
ー費用相場や頻度と期間の目安 業者選びのチェックリストまで完全網羅ー
オーバーホールは、自分の機械式腕時計を長く快適に使い続けるための必須メンテナンスです。
精密な歯車やゼンマイで動く機械式腕時計は、時間の経過とともに潤滑油が劣化し、摩耗やサビが進みます。放置すると精度低下や故障の原因になるため、定期的な分解清掃や注油、部品交換を行うオーバーホールが必要です。
本記事では初心者向けに、機械式腕時計のオーバーホールの費用相場、頻度、期間、メーカー正規と民間業者の違い、見積もりの見方、保証や純正部品の考え方などを分かりやすく解説します。
機械式腕時計のオーバーホールとは何をするのか
機械式腕時計のオーバーホールは、数百点規模のパーツから成るムーブメントを分解、洗浄し、古い油を完全に除去したうえで新しい潤滑油を適量注油する作業です。その際、摩耗した歯車やゼンマイ、リューズや巻き上げ機構、ガンギ車やアンクルなどの部品を点検し、必要に応じて交換します。
さらに分解したムーブメントを再度組み上げ、精度の調整と姿勢差の測定(ムーブメントを横にしたり縦にしたりしてあらゆる角度で正確に動くかを確認する作業)を行い、精度に狂いがないかを徹底的にテストします。また、外装(見た目)については、ガラスのクリーニング、パッキン交換、防水検査、ブレスレットの超音波洗浄、希望に応じて研磨も実施します。クォーツ式と違い機械式は電子部品を一切しようしないため、分解清掃の品質がダイレクトに精度と耐久性に影響します。オーバーホールに妥協の2文字はありません。
費用相場の目安と価格が上下するポイント
オーバーホール料金の基本的な考え方は下記になります。
基本料金+消耗品や不具合のあるパーツなどの部品代
基本料金は対象の機械式腕時計のモデルの複雑度(クロノグラフやトゥールビヨンなど)で変わります。もちろん機構が複雑になればなるほど基本料金は高くなります。
そして、消耗品や不具合のあるパーツなどの部品代ですが、これは民間業者でもメーカー正規でも実際にその時計を見ないと分かりません。つまり、修理する人の手元に届いてから料金が発生していくということです。丁寧に扱っていれば部品代が発生せず、基本料金のみになりますが、乱暴に扱って交換する部品が多くなるとプラスの料金が発生します。
この料金が判明するのが、時計を修理業者に渡してから約2週間~4週間くらいといわれています。
上記の情報を踏まえた基本料金の相場のイメージは次のとおりです。
・シンプル三針の自動巻きや手巻きですと民間業者で2万円台から、メーカー正規では4万円前後からが目安です。
・クロノグラフやGMT、パワーリザーブなどの複雑機構はメンテナス工程が増えるため、民間でも4万〜7万円台、メーカー正規では十万円超になることがあります。
・ヴィンテージ品や長期未整備でサビや摩耗が進んだ個体、部品入手が難しいモデルは追加費用が発生しやすく、相場というものがあまりありません。正直、これらに関しては「時価」という言葉が一番近い気がします。
オーバーホールの頻度
一般的にオーバーホールを実施する目安は3〜5年に1度と言われています(これはメーカーやその時計のモデルによって変わってくる。実際オメガの一部のモデルには5~7年というのも存在するが、基本料金が高い)。毎日着用し、汗や衝撃、温度差の影響を受けやすいなど使用頻度が高い場合は3〜4年、たまにしか使わない場合は4〜5年でも良好な状態を保てることがあります。
近年は潤滑油や素材が進化し、適正に使われた個体はメンテナンス間隔をやや伸ばせるケースもあります。しかし、秒針の進み遅れが大きい、ゼンマイ巻き上げの感触が重い、パワーリザーブが急に短くなった、リューズ操作で引っかかるなどの症状があれば年数に関係なくオーバーホールへ出すのが安全です。
また、ダイバーズや防水仕様のモデルは、パッキン劣化による浸水を避けるため、電池交換やブレス調整のタイミングで防水検査を行い、3〜5年周期のオーバーホールでパッキンを同時交換するのが理想的です。
オーバーホール期間の目安
スムーズにいけば、民間業者で約3〜4週間前後、メーカー正規では1〜2か月程度が一般的です。部品の取り寄せやその修理業者の混雑具合にもよりますが、概ねこのくらいの期間が目安になってきます。ただ、時計の破損が大きい場合などはさらに期間が延びます。
民間業者とメーカー正規で期間の差があるので、それぞれのオーバーホールの工程が違うからです。民間業者よりもメーカー正規の方がオーバーホールの工程が多く、実際に水圧テストをして防水機能が機能しているかや傾いた状態で数日動かして誤差がでないかをテストしたりと、徹底的にメンテナンスをしてくれます。また、個人的な感想ですが、メーカー正規はオーバーホール後も長期保証がついてくる場合が多いです。
また、ヴィンテージ品で部品調達が難しい場合や、海外本社での作業が必要なモデルはさらに延びます。場合によっては断れこともあるかもしれません。
オーバーホールにお金をかけたくない方や納期短縮を重視するなら民間業者を利用し、メーカー基準の工程や長期保証を重視するならメーカー正規で対応するなど、適宜使い分けをすることをおすすめします。
メーカー正規と民間業者の違いを正しく理解する
メーカー正規の強みは純正部品の持っていること、ブランド規格に沿った検査体制、長めの修理保証、外装仕上げの徹底した対応です。一方で費用は高めで納期も長くなりがちです。
民間業者の強みは費用が抑えやすいこと、納期が比較的短いこと、柔軟な提案が受けられることです。近年は元メーカーの技師や1級時計修理技能士が在籍する高技術の工房も多く、純正部品での対応や専用治具を備えた良店なら品質面でも十分期待できます。
ただし、技術水準は店舗差や企業差があるため、修理実績や対応ブランドの確認がなど欠かせません。どちらにもメリットがあるため、モデルや目的、予算、希望納期に合わせて選びましょう。

初心者が必ず押さえるべき見積もりと保証のポイント
見積もりでは次の5点を確認することをおすすめします。
1 オーバーホールの基本料金と追加費用がいつまでに確定するか
2 防水検査、耐磁検査、精度調整が含まれるか
3 料金が高額な場合、いつまでならキャンセルできるか
4 外装仕上げや研磨の有無(使用感がある方が好きな場合は研磨をすると傷などがなくなってしまうため)
5 修理後の保証期間と適用条件
※保証に関しては民間業者が6か月〜1年、メーカー正規で1年以上が多いかなと思います。保証期間内に不良やトラブルが起きた場合、無料でどの程度のことまで対応してくれるのか。また保証書や作業明細(オーバーホールが終了したら貰えるどのようなメンテナンスをしたかが記載されている)は次回以降のメンテナンス履歴として大切に保管することをおすすめします。
民間業者選びのヒント(読み飛ばしOK)
下記は私が勝手に考えた信頼できる民間業者のチェックリストです。ネット検索すればいくつかの業者がでてきて、それぞれのホームページで確認できる内容になっています。
バイアスがかかっているのであくまで参考程度に見てもらえればと思います。
・1級時計修理技能士やメーカー出身技師が在籍している
・年間の修理本数や対応ブランドが明確で修理実績が豊富
・分解写真や作業レポートの提供などがホームページで見れる
・オーバーホールができないものの記載がある
・修理後保証の期間と条件が明確に記載されている
・郵送で対応する場合、往復の梱包キットや宅配修理の流れが分かりやすくて丁寧
まとめ
機械式腕時計のオーバーホールは、費用や期間がかかる一方で、故障や大掛かりな修理を未然に防ぐ予防でもあります。3〜5年を目安として計画し、精度の乱れや操作感の変化、防水低下の兆候があれば時期を前倒ししてオーバーホールに出しましょう。そしてメーカー正規と民間業者の強みを理解し、モデルや金額に応じて最適な依頼先を選びましょう。定期的にオーバーホールを行い、丁寧に扱えば、機械式腕時計は世代を超えて使い続けることができます。
いかがでしたでしょうか。皆さんの疑問に答えることはできましたでしょうか。
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