腕時計の蓄光とは何か
夜光塗料には「自発光塗料」と「蓄光塗料」の2種類存在します。蓄光塗料、文字盤や針などに塗布された素材が光を吸収し、暗闇で発光する機能のことです。自発光塗料は光を蓄えなくても自ら光り続ける塗料のことを指します。
夜光機能はダイバーズやミリタリー、パイロット系など視認性を重視するカテゴリーで重要な役割を果たします。現在は非放射性の蓄光塗料が主流ですが、歴史的には放射性物質を使う夜光塗料も存在しました。
蓄光の基本メカニズム
蓄光は「フォトルミネッセンス」という物理現象を利用しています。フォトルミネッセンスとは物質に光を当てると、その光を吸収した物質が、元の光よりエネルギーの低い光を放出する現象のことです。
明るい環境で光エネルギーを吸収した蓄光素材が、暗いところで徐々にエネルギーを放出します。これが私たちの目に届き、視認することができます。
歴史と法規制
1900年初頭からラジウムを使用した夜光塗料が主流でしたが、1950年代に入るとラジウムの健康被害が社会問題となり時計メーカー相次いでラジウムの使用を中止しました。
その後、1967年には国際原子力機関(IAEA)がラジウムの時計への使用を規制する指針を定めました。
1960年代に入るとトリチウム塗料の使用が一般化しました。しかしトリチウムも放射性物質です。放射線量はラジウムよりもはるかに低く、被爆する危険性も低いため1990年代くらいまで使用され続けました。放射線も紙一枚で防げるレベルというのも後押ししたのかもしれません。
1990年代に入ると放射性物質を使用しない蓄光塗料(ルミノバ系)が開発され、急速に普及し、1990年代後半にはほとんどの時計メーカーでルミノバ系を採用しました。こうしてトリチウムは消滅していきました。
※夜光塗料の負の歴史としてラジウムガールズという言葉を覚えていただきたいです。これはラジウムを含む夜光塗料で時計の文字盤を塗る作業に従事した若い女性労働者のことです。彼女たちは作業を正確にするために、筆の先を口で整えるよう指示され、塗料を飲み込んでしまうことで放射線中毒になり、顎骨壊死などの健康被害に見舞われました。当時のアメリカでは数千人が亡くなる大変大きな社会問題となりました。 夜光塗料の負の歴史としてそのような女性たちがいたことをどうか忘れないでください。
素材別の特徴を理解する
腕時計の夜光塗料の素材は大きく3つに分類できます。
非放射性の蓄光塗料(現代の主流)
・代表例:スーパールミノバ(日本の根本特殊化学株式会社によって開発された蓄光顔料の商品名)、ルミブライト(セイコーが独自開発した夜光塗料)など。
・長所:放射能などの有害物質をまったく含んでいない安全安心な夜光塗料、繰り返し充電でき半永久的に使用可能、スーパールミノバに関しては年々発光色が増えています。
・短所:充電が必要、時間とともに減光。
・色と見え方:人間の目は緑を明るく感じるため、緑発光(C3系)は初期輝度(光はじめの明るさ)と視認性に優れます。青発光(BGW9系)は上品な白っぽい昼光色で人気ですが、同じ条件下なら緑よりわずかに暗く感じます。
放射性の夜光(自発光型)
・代表例:トリチウム
・長所:光での充電不要で常にそれ自身が発光しつづけ、真夜中でも一定の視認性を誇ります。トリチウムは経年によって変色を起こしやすいという特徴があり、紫外線や湿度などの影響で個体によっては夜光部分が飴色に変色し、いわゆる「焼けた」状態になります。この味のある雰囲気に魅了されたアンティーク愛好家には、焼け具合の色みにこだわって探す人もいます。
・短所:年単位で徐々に減光(半減期は約12年のため、約12年経つと明るさも半分になる)。デザインとコスト面に制約あり。製造面で放射性物質を使用するが、健康に問題はないとされている。
・色と見え方:最初は白色ですが、時間が経つにつれてクリーム色や茶色に変化します。塗料の表面がざらざらしているため、光り方は均一ではなくわずかにムラがでます。
ラジウム(現在では使用禁止)
・強い放射線が健康被害を引き起こすため、規制により現在は使用禁止になっています。1950年代ごろまではこのラジウムを使用していたようです。
ブランド別に見る腕時計の蓄光
・ロレックス:2007年に独自開発したクロマライトという夜光塗料を使用しています。スーパールミノバよりも約2倍の発光時間を誇り、青白い光を放つという特徴があります。実使用での見やすさと統一感のあるデザインが特徴です。
・セイコー:自社のルミブライトを長年改良し続け、ダイバーズでの信頼性が高く、最新モデルは発光の持続性も優秀です。
・ボールウォッチ:ガラス管の内側に蛍光塗料を塗布し、トリチウムを充填することで発光する「マイクロ・ガスライト」という独自の技術を持ち、圧倒的な輝度と視認性を誇ります。自ら発光するため蓄光する必要がなく、10年以上も光り続けるというから驚きです。また、同社のマーベライト クロノメーター 40 メテオライトというモデルは6色のマイクロ・ガスライトが1~12時位置につけられたモデルもあり、夜に映える花火のような華やかなモデルも存在します。
実際にNEDUというモデルを暗闇で見たことがありますが、その圧倒的な輝度と視認性に度肝を抜かれました。しかも、光り方もかっこいいのでこれは売れると思いました。ただ、時計自体が重いのでそれがネックでした。
まとめ
結論から言うと、最初の明るさ重視を重要視するのであれば緑発光のスーパールミノバをはじめとした蓄光をおすすめします。
持続性を重要視するのであれば、トリチウムを利用した充電不要で一定の光量を放ち続けるボールウオッチのマイクロガスライトのような特殊な夜光をおすすめします。
ヴィンテージ感や雰囲気重視ならアンティーク時計や青白く発光するクロマライトをおすすめします。
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