はじめに
水の中でも確実に動作し続ける「防水時計」は、ダイバーや冒険家にとって欠かせない相棒です。しかし世の中には、通常の使用範囲をはるかに超える深海の極限環境でも壊れない驚異的な防水性能を持つ時計が存在します。今回は世界で最も防水性が高い時計を3つ選び、その特徴と魅力を詳しく解説します。スマートウォッチも含め評価し、深海に耐えるための技術や実績、ブランドの専門性まで余すところなく紹介します。
第1位:ロレックス ディープシー チャレンジ — 水深11,000mに耐える究極ダイバーズウォッチ
「ロレックス オイスター パーペチュアル ディープシー チャレンジ」は、現在市販されている腕時計の中で最高の防水性能を誇るモデルです。なんと水深11,000mまで耐えられるよう設計されており、その数字は人類が到達可能な深さを遥かに超えています。2022年にロレックスから発売されたこの時計は、同社が長年培ってきた深海探査用時計技術の集大成と言える存在です。
まず特筆すべきは、その堅牢なケース構造です。直径50mm、厚さ約23mmにも及ぶ巨大なケースは、ロレックス独自のリングロックシステムを採用したモノブロック構造で作られています。素材には高強度かつ軽量なRLXチタン合金が使用され、極厚のサファイアクリスタル(約9.5mm!)で文字盤が保護されています。内部には飽和潜水に不可欠なヘリウム排出バルブも搭載されており、まさに「深海で生き残るため」に生まれた腕時計です。
このモデルはロレックスが映画監督ジェームズ・キャメロンと行った深海探査の成果を元に開発されました。2012年、キャメロン氏が乗った潜水艇がマリアナ海溝の最深部(約10,908m)に到達した際、ロレックスの試作時計が艇の外壁に取り付けられ、極限の水圧に耐え抜きました。その試験的な成功を経て、ディープシー チャレンジが生まれたのです。
ただし、11,000mという深さは理論上の性能であり、人間が実際に潜れるわけではありません。それでもこの途方もないオーバースペックには、「これほどの耐久性を持つ時計を作れる」という技術力があることを証明をしたと言えるでしょう。
第2位:オメガ シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ — 世界記録から生まれた6000m防水モデル
「オメガ シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」は、ロレックスに次ぐ驚異的な防水性能を持つモデルです。その耐水性能は水深6000m。こちらも一般的なダイバーズウォッチの防水性を大きく超えています。そして、注目すべきは実際の世界記録級潜水から生まれた時計という点です。
2019年、冒険家ヴィクター・ヴェスコヴォ氏が民間の深海探査艇「リミティング・ファクター」に乗り、マリアナ海溝のチャレンジャー深淵に挑みました。オメガはその探査艇のロボットアームにシーマスターの試作ダイバーズウォッチを固定し、史上最も深い場所への潜水実験を行ったのです。結果、探査艇は水深約10,928m(当時の世界新記録)に達し、取り付けられた時計「ウルトラディープ プロフェッショナル」も超高圧下で生還しました。この試作機は予想外に2日以上も海底に置き去りにされるハプニングに見舞われましたが、それでも無傷で動作し続け、時間のずれも1秒程度という驚異的な性能を示しました。
オメガはこのプロトタイプで得た知見を元に、約3年後の2022年にウルトラディープを市販化しました。製品版は先述の通り6000m防水ですが、これは深海の分類で言う「超深海帯」の入り口に相当する深さです。試作機が耐えた1万メートル超には及ばないものの、6000m対応とすることで実用モデルとして十分なサイズ・厚みに抑えられています。それでもケース径45.5mm、厚さ約18.1mmと非常に頑丈な造りで、7.5トンもの水圧に耐えるドーム型サファイアガラスを備えています。
技術的な特徴として、ウルトラディープはヘリウムエスケープバルブを搭載していません。オメガはケースの気密性と強度を極限まで高めることで、飽和潜水時でもヘリウムガスが侵入・蓄積しにくい設計を実現しました。チタン製モデルではケースと一体化した独自形状の「マンタラグ」(深海での負荷を軽減するため隙間のあるラグ形状)を採用するなど、細部まで深海向けの工夫が凝らされています。また搭載ムーブメントはマスタークロノメーター認定の高精度キャリバーで、極限環境でも正確な時を刻みます。
第3位:ロレックス ディープシー — プロダイバーも信頼する3900m防水モデル
第3位には再びロレックスから、「ロレックス シードゥエラー ディープシー」を選びました。こちらは2008年に初登場したモデルで、防水性能は水深3900mに達します。ロレックスが長年プロ仕様ダイバーズウォッチとして製造してきた「シードゥエラー」シリーズの中でも、とりわけ高い耐水性を持つモデルです。先に紹介したディープシー チャレンジと比べれば数値上は劣るものの、実用化された腕時計としては依然トップクラスの性能であり、プロの潜水士や特殊部隊のダイバーからの信頼も厚い名機です。
ディープシーは、なぜこれほどの防水性能を実現できたのでしょうか。その秘密はロレックス独自の堅牢構造「リングロックシステム」にあります。ステンレススチール製のケース内部に高強度の合金製リングを挟み込み、外圧を分散する構造を取っているのです。さらに約5mm厚のドーム型サファイヤクリスタル風防と、しなやかなチタン合金製のねじ留め式裏蓋を組み合わせることで、極めて頑丈かつ耐圧性の高いケースが完成しました。飽和潜水での使用も想定し、もちろんヘリウム排出バルブも搭載されています。この仕組みは1960~70年代にロレックスがプロダイビング企業(フランスのコメックス社)と共同開発したもので、シードゥエラーの伝統を現在まで受け継いでいる点もブランドの誇りです。
直径44mm、厚さ17.7mmと大型ではありますが、先の2モデルに比べれば日常装着もしやすいサイズ感であることから、高級ダイバーズウォッチとして愛好家からも人気を博しています。
スマートウォッチの防水性能最強モデル:Apple Watch Ultra
機械式時計だけでなく、スマートウォッチの分野でも防水性能は年々向上しています。その中で現時点の最高峰と言えるのが、Apple社の 「Apple Watch Ultra」 です。Apple Watch Ultraはアウトドアやダイビング向けに設計されたモデルで、公式に100m防水を謳っています。数千メートル級の機械式ダイバーズには及ばないものの、スマートウォッチとしては飛び抜けた耐水性能です。実際、国際標準規格ISO 22810:2010(一般的な防水試験基準)の100m防水に適合し、さらに潜水用機器の規格EN13319にも準拠しているため、水深40m程度までのスキューバダイビングに使用可能とされています。
Apple Watch Ultraの強みは、防水性能に加えて高度なダイブコンピューター機能を備える点です。ケース径49mmのチタン製ボディとサファイアクリスタルのフラットディスプレイは頑丈で、濡れた手袋越しでも操作しやすい大型のデジタルクラウンとボタンを装備。内部には深度センサーが組み込まれており、専用の「Oceanic+」アプリと連携することで、ダイブコンピューターとして水中で現在の深度や無減圧時間などの情報をリアルタイムに表示できます。これにより、従来は専用機器が必要だったレクリエーションダイビングをスマートウォッチ一つでこなせるようになりました。
さらに耐衝撃・耐低温仕様であり、マイナス20℃から55℃という極端な環境下でも動作するよう設計されています。バッテリー駆動時間も標準で36時間(省電力設定で最大60時間)と、長時間のアウトドア活動にも対応します。まさに極限スポーツ全般に耐えるスマートウォッチとして、防水性能とタフネスを両立させたモデルなのです。
他にもGarminのDescentシリーズや高耐久を謳うCasioのスマートアウトドアウォッチ(プロトレックやGショックのスマートモデル)などがありますが、防水性能や総合的な機能面でApple Watch Ultraは頭一つ抜けています。
価格も機械式の超高級ダイバーズに比べれば抑えめで、日常使いから本格ダイビングまで活躍する点は大きな魅力でしょう。ただし電子機器ゆえにバッテリー管理や耐久年数の限界はありますので、用途に応じて機械式と使い分けるのがおすすめです。
まとめ:究極の防水性能が示すもの
いかがでしたでしょうか。以上、世界で最も防水性が高い腕時計ベスト3と、スマートウォッチ分野での防水トップモデルをご紹介しました。ロレックスとオメガという伝統の高級時計ブランドから、アップルというテクノロジー企業まで、それぞれが独自のアプローチで「水中で壊れない時計」を追求していることが分かります。
ランキング上位のモデルはいずれも、人間が到底潜れないような深海の圧力にも耐える桁外れのタフネスを備えています。これらは実用性というよりも技術の限界に挑戦した象徴的なモデルであり、各ブランドの技術力と探究心を示すフラッグシップと言えるでしょう。また、その信頼性は日常のあらゆる環境下でも抜群です。「オーバースペック」と思われるほどの防水性能こそが、極限状況でも安心して身に着けられる裏付けになっています。
一方で、実際に時計を選ぶ際は用途に見合った防水性能を持つモデルを選ぶことが大切です。例えば水泳やシャワー程度であれば日常防水で十分ですし、スキューバダイビングにはISO規格適合の200m程度のダイバーズウォッチやダイブ対応スマートウォッチで問題ありません。今回紹介したような数千メートル防水の時計はロマンあふれる存在ですが、その性能をフルに発揮する場面は特殊です。とはいえ、「世界で最も防水性が高い時計」を知ることで、防水技術の奥深さや各メーカーの情熱を感じていただけたのではないでしょうか。
最後に、時計は精密機械であると同時に信頼性が命です。過酷な環境で使うなら定期的なメンテナンスも欠かさず、パッキン交換や防水検査を行うことで性能を維持できます。ぜひ皆さんも、ご自身のニーズに合ったタフな一本を手に入れて、水辺や海中での冒険を安全に楽しんでください。


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